2006年11月05日

グラミン銀行

HotWired Japan Altbiz よりの転載

http://hotwired.goo.ne.jp/altbiz/yamagata/010227/textonly.html

Altbiz
---------------------------------------------------------------------------------------

山形浩生の『ケイザイ2.0』

第21回 マイクロファイナンスと、高利貸しのポジティブな役割
――バングラデシュのグラミン銀行の場合


 最近、かの悪名高い2chにスレをいくつか立てていただいていて、罵倒されたりヨイショされたりしてそこそこ楽しいのだけれど、その中でふとこないだバングラデシュで話をききにいったマイクロファイナンスの話をしたら、おもしろがってる人も多少はいたようだ。ふーん、思ったほど知られていないんだな。

 というわけで今回は、そのバングラデシュのグラミン銀行をはじめとするマイクロファイナンスの話だ。ただの紹介だから、知ってる人には目新しい情報はないので読まずにいてくれてまったくかまわない。

 マイクロファイナンス。これはいま、世界の貧乏人対策の希望の星の一つだ。世界中がこの方式に注目しているし、またかなりの成功例もいっぱいあって、やりかた次第ではかなり有効そうだということで、いろんなところで導入されようとしている。何をするかというと、要は貧乏人にお金を貸してあげようということだ。ふつうの銀行では規模が小さすぎるし担保も何もない貧乏人なんかにお金は貸してくれない。それを貸そう、というもの。そうすることで、元手がないから商売を広げられない、商売を広げられないから元手がいつまでもできない、という悪循環に陥っている貧乏な人たちが、自力でそこから脱出できるようにしてやろう、という仕組みだ。

 これをいちばん最初にやったのは、バングラデシュの経済学の先生だったムハンマド・ユヌスという人だ。この人は数年前に来日したし、自伝は邦訳もあるし、おもしろいから読んでみるといいよ(『ムハマド・ユヌス自伝 貧困なき世界をめざす銀行家』 http://www.bk1.co.jp/cgi-bin/srch/srch_detail.cgi/?aid=&bibid=01587446&volno=0000)。この人は、バングラから海外に留学して経済学の先生になって帰ってきたんだけれど、経済学の講義をしているすぐ外の通りでは、飢えたホームレスたちが乞食をしていて、そのギャップにすごく心を痛めていた。自分の習ってきた経済学なんて、何の役にもたたない机上の空論じゃないか。

 そういう人たちと話をするうちに、かれは貧乏な人たちが、商売の元手がないから貧乏から抜け出せないんだということを知るようになる。商売用の自転車を買いたいけれどお金がない、という男。家具つくりをしているけれど、その道具を買うのに高利貸しで借金をしたので、その返済で手元に利益がぜんぜん残らない、という女性。そういう人たちに、ユヌス教授は、ポケットマネーからほんの2000円とか3000円とかを貸してあげた。すると、みんなそれでちゃんと商売道具を買って、商売をして収入をあげて、きっちり耳をそろえてお金を返してくれた。 

 金融の常識からすると、これは驚異的なことだ。貧乏人は、なんせ貧乏だから、担保になるものなんか持っていない。すると、お金を貸しても商売に失敗したらとりっぱぐれる。さらに、貧乏人は何も持っていないから、お金をきちんと返そうという意志が低いんじゃないか、というのがふつうの銀行の発想だ。どうせ失うものがないんなら、その貧乏人たちは借りた金をぱーっと使ってしまって、あとで「無い袖はふれねーよ」と開き直る可能性だってある。いや、その危険はきわめて高い、というのがふつうの金貸しの常識だ。さらに、そもそも貧乏人が貧乏なのは、才覚がなくてお金もうけもできないか、返すお金に手をつけないくらいの自制心すらないからじゃないか、という(暗黙の)考え方がある。

 ところがいまのユヌスの体験というのは、この常識にことごとく反している。かれらは返す意志はあった。ちゃんとそれを使って商売をするだけの才覚があり、返すべきお金をちゃんと返すだけの自制心も道徳心もあったわけ。

 そこでユヌス教授は、これをもっと大規模にやろうと思いつく。まず数人をまとめて自分が保証人になり、銀行から融資を受けさせるようにした。そしてそれがうまくいったので、かれは自分で銀行をつくる。土地を持たない、特に女性を中心とした貧乏人専門にお金を貸してあげる銀行。それが開発援助の世界では知らぬもののない、グラミン銀行だ。


●グラミン銀行だって慈善でやってるわけじゃない
 さて、マイクロファイナンスというと、必ずこのユヌスの話が出てきて、ほらごらん、貧乏人こそは正直で、お金をきちんと返すのです、従来の銀行や経済学の、ハイリスクハイリターン(というのは、リスクの高い投資や融資は、高い見返り、つまりは金利をとらなきゃやってられないよ)という常識がいかにまちがっているかがよくわかりますね、なんて言う人がいる。そして貧乏人に積極的にお金を貸すなんてすばらしい博愛精神、なんてことを言う人もたまにいる。

 でもこの話をきいて感動している多くの人が誤解していることがある。それは、別にグラミン銀行だって慈善でやってるわけじゃない、ということだ。いやいや、かれらだって基本は営利企業。しかも、かなり儲かっている営利企業だ。バングラデシュに行って、グラミン銀行を訪れてみると、そこは巨大なグラミンビルだ。立派だよ。中でつとめている人は、ぼくなんかよりずっといいラップトップをつかってやがる。生意気な。

 そして、お金を借りている貧乏な人たちは、別にだまっててもホイホイとお金を返してくれているわけじゃない。また、グラミン銀行も、そんなに甘いところじゃない。かれらはかれらなりに、ちゃんとお金が戻ってくるような手だてを講じている。

 それは相互監視システムだ。

 いまのグラミン銀行は、一人で「金貸して」と言ってもお金を貸してくれない。必ず五人組みたいなグループを組織させる。そいつらにそれぞれ一定額の預金をさせることもある。そして、その5人の中のたとえば2人とかにまずお金を貸して、でも返済はその5人の連帯責任。返済は、毎週取り立て人がやってきて、その5人を集めて連帯で返済させるのだ。借りてる人が返せないと、残りの人たちが血相変えて、おまえの努力が足りない、商売をああやってみろ、こうやれ、と相互に指導をしあったり、営業をだれかが引き受けたりとやって、とにかくそいつが返せるようにもっていく。さもないと最終的には自分たちがツケを払わされる。

 確かにこのシステムはすごい。バングラデシュでは一般の銀行の融資の数割がこげついて不良債権化していると言われるけれど、グラミン銀行の利用者は、期日通りの返済が九割を超えている。でも、それは貧乏人が正直だから、かどうかはよくわからないし、グラミンもそんなのをあてにはしていない。

 これが成立するのは、グラミンがさっきも言ったように、もっぱら農村部の女性をねらっているからだ。コミュニティがあるため、相互監視がよく効く。さらに、家庭があるので女性は逃げられない。だから村八分にならないためには必死で働くしかない。それと、みんなのローンみたいな消費用の融資じゃなくて、商売用の融資が基本だからこうなります。でも、人によってはとてもきつい立場に追い込まれることはある。これまでは借金取りにいじめられたら、みんなが同情してくれただろうけれど、こんどはそのみんなが借金取りになってるんだから。「グラミンなんか使わない、あんなところで借りたらおしまいだ」というような声も一部にはあるそうだ。

 そしてユヌスの自伝にも書いてあるけれど、グラミンは無理矢理お金を貸す。さっき、女性をねらって融資する、と書いた。バングラデシュの多くの女性は、女はお金なんかさわらないものだと思っている。それを、グラミン銀行はまずオルグ部隊を送り込んで、お金を借りるとどんなにいいことがあるか、というのをことば巧みに説いてまわる。そして半信半疑の女性たちを集めて、とにかく貸してしまう。確かに、これは賢い。お金になじみのない女性は、お金の使い手を知らないし、どこで使うかも限られている。なまじお金を持ったことがあって、カラオケ行こうとか、遊びにいこうとか、そういう誘惑を知ってる男よりも散財リスクは少ない。でも、これをいいことと思うか、悪いことと思うかは人によって意見がわかれるだろう。結果としてみんな返せているんだから、そこにはポテンシャルはあったんだろう。でも、そうやって無理に貸すのはいいのかな。これで失敗していたら、たぶんめちゃくちゃ言われただろう。そこらへん、どう判断しようか。


●金利は、日本のサラ金より高い、が・・
 さらに、ときどき貧乏人相手の融資だから金利なんてほとんどゼロだろう、と思っている人もいる。そんなことないのだ。年率名目金利で20-25%くらいかな。日本のサラ金より高いよ。

 ただ、この年率25%の金利、という数字だけを見て、ああこいつらは高利貸しだ、サラ金だ、という印象を持つのはまちがっている。高い低いはすべて相対的なものだ。この25%のローンがなければ、この人たちがお金を借りる相手は、本当にすさまじい高利貸ししかいない。そこでの高利というのは、年率100%、200%の世界。これに比べれば、グラミン銀行の25%というのはもう神様みたいな低利だ。

 さらに、いまの説明を読んでわかると思うけれど、このマイクロファイナンスは銀行側としてはえらく手間がかかる。毎週、人を集めてとりたてをやるんだよ。さらに一応商売だから、はした金を貸すんだって、ちゃんと書類つくって審査して、という手間はいる。10万円の融資一口やるのも、1000円の融資を百口やるのも、融資額は同じ10万円だけれど、手間は1000円を百口やるほうが圧倒的にいっぱいかかる。どうしてもそれだけのコストはかかるし、それが高い金利に反映される。これはまあ仕方ないことだろう。

 でも金利200%より25%がいいなら、そしてそれできちんと返済されるんなら、そういうところにこそ海外援助をつっこもうじゃないか、という人は当然いる。金利だってもっと下げてやって、0%にしてあげたらいいじゃないか、そうやって有効に使われるなら、無償であげたっていい、というのは、当然だれでも真っ先に思いつくことだ。

 ところがグラミン銀行の連中は、それはよろしくない、と言う。特にあげるのは最悪だ、という。人がいっしょうけんめい工夫をして働くのは、まさにこの高い金利を払ってお金を返さなきゃいけないというプレッシャーがあるからなんだ、というのがかれらの説だ。返さなくてよくなると、みんな怠ける。25%の金利だと、しゃかりきに働いて、結果的に50%くらいもうけを出すことだってあるだろうけれど、5%の金利なら、みんなあんまりがんばらずに、元金割れするような返済しかできないだろう、というんだ。これはとってもおもしろいポイントだ。

 実は、このグラミンの成功を見て、慈善団体的なマイクロファイナンス組織というのもボチボチあるのね。でも、派手に失敗しているところがかなりあるそうだ。慈善じゃだめだ、きちんと商売でやらないといけませんね、というのもグラミンの連中のよく言うこと。


●借金とその取り立ては、かなりポジティブな役目だって果たせる
 というわけで、これが代表的なマイクロファイナンスの仕組みだ。もちろん、五人組をつくる以外のやりかたもある。でもまず、貧乏人にとってだいじな規範をうまく活用して、逃げられないところへ貸しこんで、ものすごく厳しくとりたてて必死で働かせる、という仕組み。これはこういうマイクロファイナンスのキモだ。この逃げられない仕組みやとりたての仕組みをどう作るか? これがだいじだ。

 二ばんめに、これが事業用の融資だということ。いまの収入から返済するんじゃダメだ。融資によって収入を増やさなきゃいけない。ただしその時、貧乏人たち自身が、どうお金を使うか決められる。多くの貧乏人援助だと、お金の使い道は決められているし、貧乏人にお金を渡したらどうなるかわからん、ということで、こっちでモノを買ってあげたがることが多い。でもグラミン方式では、五人組さえオッケーといえば、ウシを買いますといってお金を借りても、あとから「やっぱ自転車にします」というのは、ありだ。よく言えば柔軟、悪く言えばいい加減。

 その職業指導までグラミンはやる。いま、グラミングループができている。グラミン・シャクティは、太陽光発電を提供する。これもちゃんとお金もうけにつながる。どうやって? たとえば、蛍光灯が3つ使える太陽電池システムだと、隣の家に1つ賃貸する。それでお金が儲かる。あるいは夜なべ仕事をする。セコイ話だ。でも、貧乏人だから、そういうセコイ話だってかなり効いてくる。グラミンフォーンは、携帯電話会社。これも携帯電話を使った収入増だ。そしてこれにより、太陽電池を買った人は携帯電話充電サービス、なんてのができる。さらにインターネットプロバイダまでグラミンははじめようとしている。ネットをお金もうけにつなげる。先進国であれだけドットコムがこけているところで、バングラなんかで商売できるのかな? これは見物だ。

 そして何より金利をとって厳しく取り立てるからこそ、みんな働いて生活水準があがるんだ、という明快な考え方。貧乏な国の借金を棒引きしてあげようという運動が去年あったけれど、借金とその取り立ては、かなりポジティブな役目だって果たせるんだというのは、一部の人には常識だけれど、かなりの人にはオドロキのようだ。不景気で貧乏だから補助金を、不景気で貧乏だから低利融資を、不景気で貧乏だから借金棒引きを、という日本の「常識」に比べて、このマイクロファイナンスの教訓というのは、(もちろんいっしょにできない部分は多いながら)ある意味で示唆的ではないかな。

 それと、最後に一つだけケチをつけておこう。グラミンが成功して、貧乏人に金を 貸すと儲かるという認識ができてくると、当然ながらそれをまねする連中が出てく る。一部の地域ではこのために、マイクロファイナンスが乱立していて、貸し付け合 戦が起きている。すると当然、やばい人にも甘い条件で貸すようになって、すると本 当に返せない人が増えて、取り立てが熾烈をきわめ……という事態もちらほら出てき ているらしい。結局マイクロファイナンスだからいいとか悪いとかじゃなくて、やっ ぱりふつうの金融機関と同じような問題も課題もあるんだな、というのが(あたりま えだけれど)見えてきている。希望はある。でも万能じゃない。そこらへんは注意し てみてやらないといけない。そんなところだ。
posted by ら・まんた at 22:14| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/26840182

この記事へのトラックバック